現代総有研究会 第2回総会・研究発表会
■挨拶(五十嵐敬喜所長)
現代総有研究会は、設立以来1年間の成果を機関誌『現代総有』創刊号にまとめた。
1 バブル崩壊以降、「個化」現象が顕著になった。「引きこもり」状態の人が110万人以上もおり、「引きこもり」に起因すると考える事件も相次いている。現代総有研究会として個化問題にどう対応できるか。
2 空地、所有者不明土地が課題となっており、土地基本法ほか、土地に関する法改正も具体化しつつある。これに対して、現代総有研究会として法制度の動きにどう対処するか。
■事務局報告(野口事務局長)
現代総有研究会は現在の会員35名、今後関西の会員を入れるなどして、100名程度に増やしていきたい。初年度としては、機関誌の創刊等、多岐にわたって充実した活動をしてきた。
都市計画法(旧法)制定100年、新法制定50年という節目の年を迎えたが、建築学会・都市計画学会の動きを見ても、本質的な議論が欠落しているように思える。本会でも、都市計画法50年・100年についてあらためて考えていきたい。
昨今のあわただしい土地建物に関する法改正の動きにも対処していきたい。
また、五十嵐氏のいう「個化」、社会学でいう「私化」の問題についても研究会で積極的に取り組んでいきたい。
■研究発表会(司会:萩原)
■1 政府の「所有者不明土地等」に関する施策の検証
宮崎一徳(参議院事務局)
国会の動きをみると、法改正の動きが慌ただしい。それを昨年の第1回研究発表会で報告、さらに機関誌でも報告した。その中には「現代総有」に近いようなものが含まれている。ここで問題となるのは、日本の「絶対的土地所有権」、担い手となる「主体」、施策の「原理」である。政府の施策がどのように位置付けられるのかを検証していきたい。
・低・未利用地対策
・空き家、空き店舗対策
・所有者不明土地等問題への対策
・土地基本法や民法改正へ向けての動き
○五十嵐コメント
所有権に手をつけずに、賃借権などを設定するなどして現代総有にかかわる方向への法改正が進んでいる。所有者不明などにより合意がない場合でも「強制的」に賃借権を設定する制度が進み始めた。この場合どのような「強制」の形がいいのかについて検討していきたい。
個別法の改正だけでなく、もっと総合的に地域全体を扱うことを検討する必要がある。消滅自治体などでは、「特区」制度の活用により、地域全体の面倒をみることと「現代総有」を絡めることは考えられないか。
「特区」の金融上、税制上、財政上の特典をうまく活用できないか。
□宮崎 特区については、民間が参入する魅力があれば可能性はあるだろう。
■2 シェアリングエコノミーの現在事例
渡辺勝道(法政大学非常勤講師)
レイチェル・ボッツマンは2010年に“SHARE”という本を発表し、大量生産・大量消費社会へのオルタナティブとして「シェアリング」という概念がインターネットを通じて大きな潮流となろうとしていることを示した。「シェアリング・エコノミー」はテクノロジーを駆使して自立分散型社会を目指すもので、現代総有とも親和性が高い。
様々な組織やコミュニティの役割を考えたうえで、特に所有から共同利用へというシェアの根底にある総有の観点からバックボーンを構築することが、このようなパラダイムシフトに向けて有効であり、この変革の端緒としての「シェアリングエコノミー」は、テクノロジーに偏る事のない広く総有の観点を持ったシステムにアップデートしていくことによって、スムーズな変革の中で主要な役割を果たしていけると考えられる。
■3 地方都市における空き家再生と地域起こし
日置雅晴(弁護士)
富山県南砺市の城端で、空き家を買い取って再生した事例を紹介する。城端別院の門前町として、絹や樟脳の集散地として、城端の町は江戸時代には栄えた。城端の特色は、城端祭り。曳山と庵が6つの町にそれぞれある。
5年前、大正の頃町家として使われていた建物が売家に出ていた。それを買い取って、地域のために再生した。
一般社団法人を作ったことにより、それが活動の永続性が保証される主体となり、また補助金が得やすくなった。個人だと相続の問題が発生する恐れがある。また、NPO(公益社団法人)だと乗っ取りの恐れがある。
建物は、補助金等の活用により、半世紀ぶりに蘇り、祭りの舞台となった。
より大きな建物が安く売りに出ているが、安く譲渡を受けると課税されてしまう恐れがある。民泊等で活用したいが、旅館業法の問題がある。
○維持費は持ち出しか
□日置 会員や関係者の宿泊や地元の会合で利用されているので、持ち出しは少ない。
○南砺市全体との関わりはどうなっているのか
□日置 南砺市は5つの町が合併してできたため、旧町の意識がいまだに強く。市全体としてのマネジメントは不足しているように思える。
○野口 (一社)にしたメリットは?
□日置 設立しやすい、望まない人を排除することができる、外部に書類等を公開する必要がない、等のメリットあるため、組織維持のための事務負担が少ない。
○成岡 NPOは乗っ取られる恐れがあるとのことだが…
□日置 NPOは社員総会で人事を決めるが、社員登録の希望があると拒否できない。資産のあるNPOは、乗っ取りを狙われる恐れがある。